将来の夢を語らうのは、どこか気恥ずかしいものだ。たとえ心の中で本気で信じていたとしても、それが叶わなかったときのことを想像してしまう。それに、おとぎ話の世界では「夢を口にすると叶わない」とも言う。
一方で、日本には古くから「言霊(ことだま)」という考え方もある。言葉には力が宿り、それを声に出すことで、その力が現実に作用するというのだ。
いささか信じがたいとも感じる「言霊」だが、実はこの考え方は、現代の脳科学や心理学の視点からも、意外なことに支持されている。
「夢を語ること」、すなわち目標や自分の意志を言葉にして外に出す(=アウトプット)ことが、心理的にも行動的にも重要だというのだ。
以下に、いくつかの研究を紹介しよう。
まずは、アメリカの社会心理学者・Robert Cialdiniの著書 Influence: Science and Practice を見てみよう。この本では、人を動かす6つのアプローチが紹介されている。その中のひとつが”Commitment and consistency”である。
これは、「人は一度言葉にして意思表示をすると、その発言や立場に一貫性を保とうとする」という心理的傾向を指している。たとえば、夢を「語る」ことで、自分の中にその目標への責任感が生まれ、行動もそれに沿って変わっていく。
次に紹介したいのが、ドイツの心理学者・Peter Gollwitzerが提唱する「目標の自動化」という考え方だ。彼によれば、人は目標をできるだけ明確にし、状況と結びつけておくだけで、脳が自動的にその目標達成に向けて動き出すという。
こうした効果に「〇〇効果」という名前をつけたくなるのが脳科学や心理学の性(さが)ではあるが常ではないことを言及しておく。とはいえ、ここでは深入りしないでおこう。今後のブログでは、信頼に足る研究者が書いた本を取り上げ、自分なりの視点で解釈しながら紹介していく予定だ。
さて、ここまでを踏まえて、僕なりの言葉でまとめてみたい。
「夢を語れるまでに言語化し、それを自動化できる仕組みに落とし込み、あとは努力を続ける。」
これこそ、「言霊」の科学的な側面だと言っても、あながち間違いではないのではないだろうか。
それでは、言霊を信じて、僕の現在の目標と、そのためのステップを掲げよう。さらに習慣レベルまで落とし込むのは、さすがに細かすぎるので、大まかな部分だけにしておく。
まず、大きな目標として、あるいは大義名分として掲げたいのは、「ことばとこころを中心に、法で人を守る」ということだ。
これをもう少し具体的に言うと、(心理・認知)言語学で博士号を取得し、公認心理師(あるいは臨床心理士)の資格を取り、弁護士としても活動できるようになること。この三つの柱をすべて立てたい。
弁護士事務所で1年ほど働いたことがあるのでわかるのだが、クライアントは、法律的な問題だけでなく、常に心の問題も抱えている。弁護士は法のプロであっても、心のプロではない。そのため、どうしても心の傷にまで手を差し伸べることは難しい。
その両方を同時に支えられる「弁護士 × カウンセラー(便宜的にこう呼ぶ)」が、今の社会には必要だと強く思う。そして、そうした実践的な立場だけでなく、研究者としての視点も不可欠だろう。現場で感じたことを研究対象として掘り下げ、学術的なかたちで世の中に還元する。それは、他の誰かの参考になるのと同時に、自分自身が迷わず進むための軸にもなるはずだ。
とりわけ僕は、言語に強い関心がある。だからこそ、人が発する言葉そのものを入口にして、心にアプローチする方法を探っていきたい。さらに言えば、今後、外国籍の方が日本社会に増えていくことを考えると、国際結婚などから生まれる法律、言語や心理のトラブルも重要なテーマになってくる。そういった領域を、自分の専門として扱っていきたい。
この三つの役割(弁護士・心理士・学者)は、どれが欠けても僕にとっては不完全だと感じる。弁護士だけでは、心を癒すことはできない。心理士だけでは、現実の法的トラブルに立ち向かえない。学者だけでは、どうしても人と直接関わる経験が限られてしまうこともある。
そして、この目標をどうやって日常に落とし込むか。
弁護士の目標は単純明快。司法試験に合格することだ。現在は予備校に通い、そのために多くの時間を勉強に充てている。
心理士についても、資格取得はひとつの目標にはなるが、それだけではなく、今のうちから人の心に関心を向け、もっと対話を大事にしたいと思っている。そのために何ができるかは、別に考えていることがいくつかあるため、それはまた別の機会にまとめたい。
学者としては、幅広く知識を蓄えながら、それを社会に発信する力を育てたい。今こうして書いている「ことばノート」も、そのためのひとつの試みである。
ちなみに、僕が今描いている具体的なロードマップはこうだ。
2026年に予備試験合格。2027年には大学を卒業し、大阪大学の博士前期課程に進学すると同時に司法試験も突破する予定。
2028年は修士1年を修了し、もしかしたら司法修習のために一度休学することになるかもしれない。
その後、2029年から2030年にかけて修士課程を修了し、心理士の資格も取得したい。
そして2030年からは大阪大学の博士後期課程に進みながら、弁護士としても活動を開始するつもりだ。
うまくいけば、2035年には、「学者」「弁護士」「心理士」の三足の草鞋(わらじ)を履いて、ことばとこころを中心に、法で人を守る人間になっている、、、そんな未来を見ている。
【参考文献】
Cialdini, R. B. (2001). Influence: Science and Practice (4th ed.). Allyn & Bacon.
Gollwitzer, P. M., & Bargh, J. A. (2005). Automaticity in goal pursuit. In A. Elliot & C. Dweck (Eds.), Handbook of competence and motivation (pp. 624–646). New York: Guilford Press.
【タグ】
認知心理学, 社会心理学, 言語心理学, 自己制御, 目標設定, 言霊