哲学と言語に関連があるのかと問われることがある。一見、異なる領域に見えるかもしれないが、実際は、両者の関係は思いのほか深い。
そもそも「言語学」という学問自体、哲学から派生した側面がある。言語の本質や意味、記号、思考との関係といった問題は、かつて哲学が扱ってきたものであり、そこから徐々に専門性を高めるかたちで、言語学という分野が成立してきた。しかし、興味深いのは20世紀に入ってからの展開である。言語と哲学は、再び接近しはじめる。この動きを指して「言語論的転回(linguistic turn)」と呼ぶ。
哲学の歴史を大きく三つの転換で捉える見方がある。
古代の「存在論的転回」、近代の「認識論的転回」、そして現代の「言語論的転回」である。この分類は、あくまで大づかみな整理ではあるが、思索の座標軸として有効である。
古代の存在論的転回においては、「世界」それ自体のあり方が問いの中心に据えられた。近代になると、「世界を知る私たち」の認識の成立が問題となる。そして現代においては、その「認識」すらも、言語という媒介なしには考えられないのではないか、という疑いから出発する。
知は、言語によって構成される。そうした視点から、言語の分析を通して哲学的問題にアプローチする姿勢が生まれたのである。これが「言語論的転回」だ。
この言語論的転回は、もともと分析哲学、つまり英米圏のいわゆるアングロサクソン系哲学の特徴を指す言葉であった。しかしやがて、フランスやドイツといった大陸系の哲学においても、言語という問題が中心的な位置を占めるようになる。
すなわち、現代哲学の多くは、「言語」を思考の基盤としているのである。
したがって、哲学と言語の関係は、今日において本質的な問いとなっている。それゆえ、現代哲学を学ぶうえでは、言語の問題を避けて通ることはできない。まして、言語学においても同様である。
もっとも、こうした現代の動向に至るまでには、当然ながらそれ以前の哲学の流れを押さえておく必要がある。
そこで次回からは、古代からひとまず近世までの哲学的展開を概観してみたい。以下に、その準備として図を添えておく。

【参考文献】
岡本裕一朗『教養として学んでおきたい哲学』マイナビ新書、2019年
犬竹正幸『よくわかる哲学——古代から現代まで、哲学がわかれば人間がわかる』22世紀アート、2021年
貫成人『大学4年間の哲学が10時間でざっと学べる』角川文庫、2019年
木村 靖ニ『詳説 世界史探究』山川出版社、2017年。
【タグ】
哲学史, 言語哲学, 言語論的転回, 存在論, 認識論, 分析哲学, 西洋哲学, 思索, 知の構造, 言語と世界,