#9 斬れる英語と英語学習法

僕の英語学習について尋ねられることが時折ある。そのたびに、つい説明がましく、ややこしいことを言ってきたように思う。というのも、これまで実に多様な学習法に手を出してきたからである。

だが、最近の学習はきわめて単純である。もっぱら、アメリカのニュース雑誌『TIME』を読み、リスニングについては『New York Times Audio』を利用している。それだけだ。

みなさんが思われているような、いわゆる文法問題を解いたり、リスニング問題を解いたりすることは、ほとんどない。

もちろん、「文法」と言われる分野にまったく触れていないわけではない。英語学の総論的な本や、統語論、認知言語学といった言語学に関する本を読むことはある。ただし、それは文法問題を解けるようになるためというよりも、言語そのものの仕組みに関心があるからであって、一般的な意味での「文法学習」とは少し違う

それでも、文法問題が解けなくなったとか、解けてもその根本が理解できない、というようなことはない。むしろ、日々、英語力は確実に育っているという実感がある。というのも、僕は日常的に英語を教える機会が多く、また週に数回、英語を使う必要のある施設でも働いているからだ。そのおかげで、学校英語的な理論も、話すときの感覚も、衰えてはいない。

とはいえ、だからといって「読む・聴く」というインプットの訓練を怠っているわけではない。むしろ、これまで以上に意識して取り組んでいる。その中で、冒頭に挙げた『TIME』や『New York Times Audio』は非常に役に立っている。
ただ、せっかくこうして学習の記録を保管できる場所があるのに、それを活用していないのはもったいない気がしてきた。

というわけで、これからは、『TIME』や『New York Times Audio』から得た「覚えておきたい」あるいは「使えるようになりたい」英語表現・語彙などを記録・紹介していこうと思う。

ここまでは、あくまでその告知である。
なぜ僕が今、『TIME』を読むのか。その理由についても少し触れておきたい。

僕は、今は亡き同時通訳者・松本道弘を英語の師と仰いでいる。彼は英語と武道を重ね合わせ、「英語道」という独自の理念を築いた人物だ。海外経験がなかったにもかかわらず、その英語は「斬れる英語」だった。

「斬れる英語」というのも彼の造語で、日本人が使いがちな、息の詰まった硬直した英語ではなく、自在で鋭く、生きた英語のことを指している。
僕はまだ、「斬れる英語」を使えてはいない。その「斬れる英語」を使えるようになるために、僕は今も英語を学び続けている。

松本道弘は『TIME』を主要なインプット源としていた。そして、それを強く勧めてもいた。僕はその姿勢に感化され、自分も『TIME』を読むことにしたのだ。

彼の理論によれば、英語習得の道には「迷人 → 鉄人 → 達人 → 名人」という段階があるという。僕自身は今、「鉄人」と「達人」の間にいると感じている。

鉄人とは、単語を一つひとつ追うのではなく、英語をセンテンス単位で読めるようになった状態を指す。達人とは、行間を読み、文の背後にある「ハート」、つまり文脈や話者の思いまでも読み取ることができる段階である。もちろん、これは読み手としての話だけでなく、書き手・話し手としても同じことが求められる。

僕の英語は、まだ肩に力が入りすぎていて、その「ハート」を感じ取るまでには至っていない。どうしても英文を追いかけるように読んでしまい、ニュースとして楽しめてはいない。つまり、まだ『TIME』を「読んでいる」というより、「必死に追いかけている」という段階にある。

松本氏は「鉄人」の段階でこそ、多読・手書き・英英辞典の活用が重要だと言っている。僕もそれに倣って、今後はさらにそれらを意識的に続けていきたいと考えている。

もちろん将来的には、「斬れる英語」を口にできるだけでなく、それにふさわしい英語を書き、読みこなす力も備えていかなければならない。
そのためにこそ、『TIME』のような高密度・高品質な英語を、繰り返し読み、手を動かしてそうした力を身につけていきたいと考えている。

この場所に、その学習の記録を少しずつ残していこうと思う。
どうか、温かく見守っていただきたい。

【参考文献】
松本道弘『「タイム」を読んで英語名人』講談社+α新書、2000年。

【タグ】
英語学習,同時通訳,TIME,松本道弘,英語道,学習記録,英語読解