#16 ソシュールのいう「言葉」とは

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「言葉」とは何だろう。

日本語や英語のような、それぞれの「言語」のことだろうか。それとも、僕たちが実際に口から発する「言葉」のことだろうか。あるいは、人間がそもそも言葉を使うことのできる能力そのものを指しているのだろうか。

普段は、これらをそれほど厳密に区別する必要はない。

しかし、言語そのものを研究しようとすると、少し事情が変わってくる。

近代言語学の出発点ともされるFerdinand de Saussure(フェルディナン・ド・ソシュール)は、ここで langage(ランガージュ)・langue(ラング)・parole(パロール) という三つの言葉を区別した。

まず langage(ランガージュ)

これは、日本語や英語といった個別の言語というより、人間が言葉を用いて行う活動全体を指している。

例えば、人間は音を使って何かを伝える。相手はそれを聞き、意味を理解する。そして自分もまた言葉を返す。

「人間は言葉を持っている」と言うときの「言葉」に最も近いのが、このランガージュだと考えると分かりやすい。

ただ、ランガージュにはいろいろなものが含まれている。

僕が日本語を話せるということと、今日実際に「おはよう」と言ったことは、同じ「言葉」に関する現象ではあっても、明らかに少し違う。

そこでソシュールは、ランガージュの中から langue(ラング)parole(パロール) を区別した。

ラングとは、ある社会の中で共有されている言語の体系である。

例えば、日本語。

僕たちは「犬」という動物を inu と呼ぶことを知っている。「私は学校に行く」という文を聞けば、その意味もだいたい分かる。

なぜ分かるのか。

日本語話者のあいだで、「犬」という音とその意味、語の並べ方、動詞の活用などについて、ある程度共通した仕組みを共有しているからだ。

もちろん、誰かが「日本語のすべてのルール」を頭の中に教科書のような形で保存しているわけではない。それでも、僕たちは日本語という一つの体系を共有している。

これが langue(ラング) である。

日本語、英語、フランス語というのは、それぞれ異なるラングが社会の中に成立している例だと考えることができる。

では parole(パロール) は何か。

これは、そのラングを利用して、個人が実際に行う具体的な言語使用のことである。

例えば、僕が今、

「今日はラーメンが食べたい」

と言ったとする。

日本語という体系そのものがラングであるのに対して、僕が実際に発した「今日はラーメンが食べたい」という一回の発話はパロールである。

別の人なら、

「ラーメン食べたいな」

と言うかもしれないし、

「今日ラーメン行かへん?」

と言うかもしれない。

同じ日本語というラングを使っていても、実際に現れる言葉は人によって違う。

声も違う。言葉遣いも違う。話す速さも違う。

つまり、社会の中で共有されている仕組みがラング、その仕組みを使って実際に生み出される個々の言葉がパロールなのである。

これは、音楽で考えると少し分かりやすい。

例えば、一つの楽譜があるとする。

楽譜には、「どの音を、どの順番で、どのように演奏するか」という一定の仕組みが記されている。

しかし、その楽譜を実際に演奏すれば、演奏者によって微妙に違う音楽になる。

同じ楽譜でも、テンポが違う。音の強弱も違う。癖も違う。

それでも、同じ曲として成立する。

言語もこれとよく似ている。

ラングが楽譜だとすれば、パロールは実際の演奏である。

そして、その楽譜や演奏を含めた「音楽をする」という活動全体をランガージュに対応させて考えると、三者の関係が見えやすくなる。

整理すると、

langage(ランガージュ)
人間の言語活動全体

 ↓

langue(ラング)
社会の中で共有されている言語体系
例:日本語・英語・フランス語

 ↓

parole(パロール)
その体系を用いて個人が実際に行う具体的な言語使用

となる。

そして、ソシュールが言語学の中心的な研究対象として取り出そうとしたのが、このうちの langue だった。ラングは個人のその場限りの発話ではなく、社会の中で共有されている「体系」だからである。

僕たちは普段、誰かが話した「言葉」を聞いている。

しかし、その一つひとつの発話の背後には、話者同士が共有している巨大な体系がある。

目の前に現れているのはパロール。

その背後にあるのがラング。

ソシュールの言語学は、目に見える一つひとつの「言葉」から、その背後に存在する「仕組み」へと目を向けたところから始まったのである。

【参考文献】

Saussure, F. de. 1916. Cours de linguistique générale. Paris: Payot.

丸山圭三郎. 2008. 『言葉とは何か』筑摩書房.

町田健. 2004. 『ソシュールのすべて――言語学でいちばん大切なこと』研究社.

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言語学 / 一般言語学 / ソシュール / 構造主義 / ラング / パロール / ランガージュ

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